1-D│アイデア検証

1-D│アイデア検証

本記事では、Step1「アイディエーション(事業アイデアを出し、絞り込む段階)」の最後の工程である「アイデア検証(初期評価)」を解説します。1-CでBICに落とした事業アイデアを、5つの問いでクイックに検証し、次のStep2(事業企画)に進めるかを判断する工程です。

はじめに. ここは「簡易検証」。次に進むかを、速く決める

アイデアができると、すぐに市場規模を精緻に計算したり、事業計画を作り始めたくなります。しかし、この工程で求められているのは「次のStep2(事業企画)に進む価値があるか」をクイックに確かめることです。緻密な定量の検証は、Step2で行います。そこでThird Baseでは、アイデア検証を次の2つに分けて進めることを勧めています。

  • 何で判断するかを決める:BICに対して投げる5つの問いと、その評価基準を先に決める
  • 判断材料を取りに行く:想定顧客へのインタビューで、課題の存在と解き方の筋を、定性中心に確かめる

本記事では、次の2つの工程に分けて解説します。

  • D-1|評価観点と評価基準:5つの問いと、自社仕様の評価基準を決める
  • D-2|インタビュー検証:判断材料を取るためのインタビューを、5つのプロセスに沿って進める

この工程で作るものは2つです。

1つ目はBICに落とした事業アイデアを5つの観点で評価した結果、2つ目はStep2(事業企画)に進めるかどうかの判断です。

D-1│評価観点と評価基準

5つの観点で評価

初期評価では、BICに落とし込んだ事業アイデアに対して5つの問いを投げます。アイデアの良し悪しを総合点で語るのではなく、問いに分けることで、どこが弱いのかを特定できる状態にします。

5つの問いは、①解くべき課題か(市場解像度)、②実現できる解き方か(実現性)、③企業価値を高めるための優位性はあるか(事業性)、④十分な市場規模はあるか(市場性)、⑤自社が取り組む意義・必然性はあるか(意義性)です。あくまで初期的な評価ですが、課題やニーズが存在しない市場にはサービスを提供する余地がないため、市場解像度が最も重要な観点になります。

ここで大事なのは、5つの問いのうち「解くべき課題か(市場解像度)」を最優先に置くことです。課題やニーズが存在しない市場には、サービスを提供する余地がありません。ここが薄いまま実現性や優位性の議論に入ると、「作れるし他社より良いが、誰も困っていない」案が残ります

よくあるつまずき:

市場解像度が薄いまま、実現性や優位性の議論に入ってしまうと「作れるし他社より良いが、誰も困っていない」案が残ります。まず「誰が、どんな場面で、本当に困っているのか」を確かめましょう。

評価基準は自社仕様に直す

評価観点が決まったら、各観点の基準を決めます。基準例はありますが、そのまま使うものではありません。

基準例をもとに、企業として優先度が高い観点や、絶対に外せない条件を加味した評価基準を自社で作成します。ただし、すべてのアイデアを共通の基準で評価することは必須です。評価の途中で基準が変わらないよう注意します。

ここは簡易検証なので、定性的な領域を中心に、インタビューでクイックに検証します。市場解像度を除き、観点の優先度は企業によって異なります。

よくあるつまずき:

評価しながら基準を後付けで調整してしまうと、最初に評価したアイデアと最後に評価したアイデアが比較できなくなり、選定の説明がつかなくなります。

D-2│インタビュー検証

このフェーズにおけるインタビューの位置づけ

「誰の・どんな課題を・どう解決するか」が見えるまで聞きに行く

D-1で決めた基準で評価するには、判断の材料が要ります。その材料を取りに行くのが、想定顧客へのインタビューです。

このフェーズで確かめたいのは、突き詰めると「誰の・どんな課題を・どのように解決するか」の3点です。とくに「課題を持っているのはどんな人か」と「その人が具体的に何に困っているか」の2つが、市場解像度そのものになります。

「誰が、どんな場面で、何に困っているか」を具体的に言えるようになるまで、インタビューを重ねます。

1回ずつのインタビューは速く粗く回しますが、1〜2回で判断が出ることはまずありません。最初に置いた顧客像や課題がそのまま当たることはほとんどなく、聞くたびに顧客像や課題をずらしていく(ピボットする)のが普通です。この3点が見えないうちに市場規模を出したり需要計画を描いたりしても、絵に描いた餅で終わります。

なお、インタビューの進め方そのものは、事業企画フェーズ(Step2)でも同じです。ただし、目的・相手・論点の立て方・量が次のように異なります。

項目初期評価フェーズ(本記事)事業企画フェーズ(Step2)
目的Step2(事業企画)に進むべきかの判断事業モデルの妥当性・実現性の検証
検証対象課題の存在と解き方の筋を、定性中心にクイックに確かめる事業モデルの各要素を、定量も含めて確かめる
相手想定顧客が中心顧客に加え、有識者、協業先候補
論点の立て方D-1の5つの評価観点から論点を設定するイシューツリーで論点を分解する
量の目安「誰が・どんな課題を」が具体的に言えるまで(数十人程度)累計100人単位

インタビューの実施プロセス

インタビューというと「とりあえず顧客に話を聞く」イメージを持たれがちです。しかし実務では、図の5つのプロセスで進めます。

話を聞きに行く前に、目的の言語化を始め、インタビュー相手それぞれのガイドを作成してからインタビューを始めます。

インタビューの実施そのものは、全体の一部にすぎません。目的や相手があいまいなまま数をこなしても示唆は出ず、使えない情報が溜まるだけです。ここからは、プロセスごとに具体的な進め方を説明します。

①実施目的の言語化

最初に、インタビューの目的を文章にします。多くの場合、ここの目的が「知りたいこと」止まりになってしまいます。

目的は「どんな意思決定をするためか」と「そのために何を明らかにするか」の2段まで書きます。

「顧客課題を把握する」や「ニーズを理解する」では、判断の基準がありません。そのため論点が広がり続け、終わった後に「それらしい情報は集まったが、何が分かったのか分からない」状態になります。また、目的はチーム内で共有できているつもりになりがちです。だからこそ、必ず文章にして確かめます。

初期評価フェーズなら、たとえば「Step2に進むかを判断するため、課題の発生頻度・深刻度と、解決に対する支払意思を明らかにする」と書きます。

ここを明確にしておくとその後のインタビューガイドの作成が楽になります。

②インタビュー相手を探す

目的が決まったら、次は誰に聞くかです。直感や人脈で決めがちなところですが、必ず目的から逆算して選びます。

知りたいことをもとに、顧客・有識者・競合・組み手候補のうち、誰に聞くべきかを決めます。
候補者は、経験の新しさ・経験の濃さ・立場の3つの観点で絞り込みます。

新しさは、最近の経験かどうかです。市場の動きは速く、1年前の常識が通用しないこともあります。濃さは、実体験をもとに話せるかどうかで、業界経験の年数や関わった案件の種類で見ます。立場は、利用中か解約済みか、決裁する側か使う側か、といった違いです。立場が変わると、見えている景色も意見も大きく変わります。

初期評価フェーズで聞く相手の中心は、想定顧客です。知りたいことの大半が「課題があるか」「どう困っているか」だからです。

③インタビューガイドを作る

相手が決まったら、インタビューガイドを作ります。ガイドは、単なる質問リストではありません。

流れは、導入・本題・クロージングの3つに分けます。回答仮説と優先度を先に決めておくと、オープンクエスチョンばかりになるのを防げます。時間が足りなくなっても、優先度の高い論点は確実に回収できます。インタビューの質は、このガイドでほぼ決まります。

ガイドは思いつきで作らず、次の4つの手順で作ります。

1│目的と対象者を一文で書く

「誰の何を知りたいのか」を一文で書き出します。

プロセス1・2で決めた内容を、ガイドの冒頭に一文で置きます。

2│論点を設定する

目的を果たすのに足りない情報を論点として洗い出し、漏れなく重複なく構造化します。

ここで初めて、何を聞くべきかが見えてきます。

3│質問を作る

論点ごとに、オープンとクローズの質問を使い分けて作ります。

あわせて「いつ・なぜ・どうやって」と具体的な行動を聞く質問も用意します。具体的な行動を聞くことで、課題の真因にたどり着けます。

4│回答仮説を作り、質問を磨く

自分がこの質問を受けたら何と答えるかを考え、返ってくる回答の粒度に合わせて質問を直します。

たとえば「なぜ●●アプリを使わないのか」は、「代わりに何のアプリを使っているか」と聞き直すと答えやすくなります。シミュレーションを繰り返すほど、質問の粒度と深さが変わります。

以下では、手順2〜4をもう一段具体的に説明します。

論点は5つの評価観点から立て、事実で確かめられる問いまで分解する

まずは論点について説明します。ここでの論点とは、目的を果たすために明らかにすべき問いです。

初期評価フェーズでは、D-1の5つの評価観点を出発点に論点を立てます。

立てた論点は、インタビューで事実として確認できる小さな問い(小論点)まで分解します。

図の例では、「PoCに進む価値があるか」という目的に対し、課題の頻度・深刻度・支払意思の3つの論点を立てています。たとえば頻度の論点は、「課題が起きる業務は何か」「発生頻度は数字で言うとどれくらいか」「同じ課題を持つ人はどこまでいるか」と分解します。論点のままでは、評価のポイントが定まりません。分解が甘いと質問も回答も抽象的になり、インタビューが意見集めで終わります。

質問は、回答仮説を考え抜き、磨く

小論点から質問を作るとき、いきなり完璧な質問を目指す必要はありません。最初の質問は、まだ磨く余地があるものととらえます。

具体的には、
小論点ごとに、初期の質問を書き出し、
その質問にどんな答えが返ってくるかを想像し、回答仮説として書き、
回答仮説をもとに、事実を引き出せる質問に磨き込む。

たとえば「その課題は、どれくらいの頻度で起きますか」は、「直近1週間で、その対応を何回しましたか」と直すと、数字で答えてもらえます。回答仮説は、相手の経験や立場を踏まえて作ると精度が上がります。この作業を繰り返すことで、後から比較・統合できる事実がそろい、結果を判断に使えるようになります。

(参考)回答の粒度を先に決めて、落とし穴を避ける

回答仮説を持たずに臨むと、相手がうまく答えられなかったり、粒度のずれた答えが返ってきたりします。

回答仮説は「取得したい情報項目」「期待する粒度」「想定される回答パターン」の3つを事前に決めて作ります。

たとえば解約理由を聞くなら、まず「いつ・誰の判断で・何がネックで・何に切り替えたか」の4項目に分けます。次に「3か月前に、他部署とも相談し、月額料金が高くて、A社の○○に乗り換えた」のように、期待する答えを文章にします。そのうえで、漏れそうな項目には質問を足し、答えにくそうな項目は「大手か地場か」のようにカテゴリで聞きます。

④インタビューを実施する

当日はガイドに沿って進めますが、インタビューは一問一答ではなく会話です。相手の答えが回答仮説からずれることも、よくあります。

ガイドの流れにこだわらず、「この話はどの論点に使えるか」「もう一段深掘る価値があるか」を考えながら聞きます。

また、論点からずれた話や、優先度の低い質問に時間を取られたら、途中で切って次に進みます。

図の5つのポイントのうち、とくに大事なのは「アウトプットを意識した聞き方」と「インサイトの深掘り」です。たとえば価格は、「いくらで買うか」より「X円・Y円・Z円ならどれで買うか」と聞くほうが答えやすくなります。また、表面的な課題で止めず、「なぜ」を重ねて真因まで掘り下げることも重要です。

⑤インタビューサマリを作る

インタビューのあとは、2種類のサマリを作ります。

インタビューごとに個別サマリを作り、次のインタビューの質問と回答仮説に反映します。
すべて終えたら全体サマリを作り、個別サマリから全体として言えることを示唆にまとめます。

個別サマリで「この質問では抽象的な答えしか返らなかった」「この論点が抜けていた」と振り返ると、次の精度が上がります。最後にまとめて作ろうとすると、この効き目がなくなります。

初期評価フェーズでは、個別サマリのたびに「誰が・どんな課題を」がどこまで具体的になったかを確かめます。まだぼやけているなら、相手や論点を変えて次のインタビューに行きます。

サマリは論点ごとに「何が分かったか」と示唆で書く

サマリは、会話の内容をまとめたものではありません。

論点ごとに「何が分かったか」「仮説は強まったか、弱まったか」「どう動くべきか」を書き、判断の材料になるメッセージにまとめます。

全体サマリは、個別の結果をすべて載せるものではありません。複数のインタビューに共通する傾向や、特定の条件でだけ起きる課題を整理し、全体の示唆に引き上げます。そして最後に、示唆の根拠が個別サマリや議事録に書かれているかを確かめます。主観による飛躍を防ぐためです。

初期評価フェーズでは、この全体サマリが、D-1の評価基準に照らして評価するときの根拠になります。

示唆まで書き出して、初めて検証になる

サマリを作るときは、図の4つのポイントを意識します。

録音を聞き直して認識を正し、反応の強さも含めて、論点ごとに示唆まで書き出します。

同じ「反対」でも、「慎重に見ている」のか「絶対に受け入れられない」のかで、意味は大きく変わります。インタビューは、実施しただけでは価値を生みません。示唆に落とし込み、判断の材料にして初めて、情報集めではなく事業判断のための検証になります。

まとめ

アイデア検証では、5つの問いと基準を先に決め、市場解像度を最優先に、「誰が・どんな課題を抱えているか」が具体的に言えるまでインタビューで確かめることが大事です。ここは簡易検証であり、緻密な定量検証はStep2で行います。今後アイデアの検証に入る方は、下記の点を見直してみてください。

  • BICに対して、5つの問い(市場解像度・実現性・事業性・市場性・意義性)を立てているか
  • 評価基準を自社仕様に直し、すべてのアイデアに同じ基準を使っているか
  • インタビューの目的を、「何を決めるために、何を明らかにするか」まで書いているか
  • 5つの評価観点から論点を立て、事実で確かめられる問いまで分解しているか
  • 個別サマリを毎回作り、次のインタビューに反映しているか
  • Step2に持ち越す残論点を一覧にしているか
  • 評価結果と「Step2に進むか」の判断を、意思決定者と合意しているか

Third Baseではこれまで「新規事業をどう進めればいいか分からない」「スピード感を持って進めたい」といったご相談をいただき、メンタリングや伴走など様々な形で支援してきました。新規事業開発でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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