本記事では、Step1「アイディエーション(事業アイデアを出し、絞り込む段階)」の3つ目の工程である「事業アイデア創出」を解説します。1-2で特定した参入領域の中で、事業アイデアを出し、絞り、関係者が共通認識を得られるフレームワーク(Business Idea Canvas)に落とすまでの工程です。
はじめに. 事業アイデアは「ひらめき」ではなく、手順で出す
「良い事業アイデアが出ない」という相談は多くあります。しかし、筋の良いアイデアを準備なしにひらめくケースはほとんどありません。世の中の新規事業も、集めた材料を組み合わせた結果として生まれています。そこでThird Baseでは、事業アイデア創出を次の3工程で進めることを勧めています。

- 起点を決める:事業アイデアを構成する4つの要素(誰の/どんな課題を/どういう優位性で/どのように解決するか)のうち、どれから埋めるかを決める
- 出して、見極める:材料を集めて組み合わせ、複数のアイデアを出し、市場性・実現性・優位性で絞る
- 整地する:絞ったアイデアをBIC(Business Idea Canvas)に落とし、関係者の共通認識をそろえる
ここで大事なのは、最初に「起点」を決めることです。起点が決まらないと、集めるべき材料も進め方も定まらず、思いつきの機能案と事業アイデアが同じ土俵に並んでしまいます。
本記事は次の3つの章で詳細を解説します。
- C-1|起点の選定:事業アイデアを4つの要素で定義し、どの要素を起点に埋めていくかを選ぶ
- C-2|アイデア創出・見極め:材料を集めて組み合わせ、アイデアを出したうえで評価する
- C-3|整地:BICに落とし込み、共通認識をそろえる
この工程で作るものは、BIC(Business Idea Canvas)に落とし込まれた事業アイデアです。次の工程「1-4|C│アイデア検証」で検証にかけるのは、このBICです。
C-1│起点の選定
事業アイデアを「誰の・どんな課題を・どういう優位性で・どのように解決するか」の4つの要素で定義する
事業アイデア創出を学ぶ前に、まず事業アイデアとは何かを説明します。ここがあやふやだと、思いつきの機能案と事業アイデアが混在してしまいます。
事業アイデアは、「誰の」「どんな課題を」「どういう優位性で」「どのように解決するか」の4つの要素で定義します。

4つの要素は、大きく2つのまとまりに分かれます。前半の「誰の」「どんな課題を」は解くべき課題、つまり「誰が抱えている、どのような不(不便・不満・不安)か」です。身の回りには、まだ表に出ていない潜在的なものも含めて様々な課題があります。一方、後半の「どういう優位性で」「どのように解決するか」は、その課題に対する解き方です。数ある課題の中から解くべき課題を選び、それに対する解き方を明確にしたものが事業アイデアです。
図のモバイルSuicaの例のように、4つの要素は「<誰>の<どんな課題>に対し、<どういう優位性>で<どのように解決するか>」という一文に落ちます。この一文が書けないものは、まだ事業アイデアではなく着想の段階だと判断できます。なお、この4つの要素は、事業アイデア創出の最終アウトプットであるBIC(Business Idea Canvas、C-3で解説)の骨格にもなります。
4つの要素のうち、どれから考えるかを選ぶ
4つを同時に考えることはできないため、実際にはどれか1つの要素を先に固め、そこを手がかりに残りの要素を順に埋めていきます。この最初に固める要素を「起点」と呼びます。そして、起点から残りの要素を埋めていく技法を、起点ごとにカスタマードリブン、プロブレムドリブン、アドバンテージドリブン(世間ではアセットドリブンともいわれるがThird Baseではアドバンテージドリブンと呼称)、テクノロジードリブンと呼びます。

どの技法を使っても、最後に4つの要素をすべて埋める点は変わりません。違うのは、どの要素から考え始め、どの順番で埋めるかです。
また、どの技法も「起点となるものを洗い出す → 構造化・具体化する → 発散する → 評価する」という同じ骨格で進みます。起点から直接アイデアに飛ばず、まず起点となるものを洗い出して言葉にすることが、4つに共通するポイントです。 ※各技法のステップごとの具体的な進め方(使うフレーム、記入例、つまずきどころ)は、技法ごとの別記事で解説します(準備中)。
起点は、1-Bで特定した探索範囲と、自社の状況(顧客の声を集められるか、社会課題が明確か、技術や資産の蓄積があるか)の2つから選びます。
図のとおり、起点ごとに向いている探索範囲と自社の状況、陥りがちな罠が異なります。たとえば、既存顧客基盤があり、営業やカスタマーサクセスに困りごとが集まる企業であれば、カスタマードリブンが候補になります。一方、研究開発機能を持ち、新技術や特許などプロダクトの種をすでに持っている企業であれば、テクノロジードリブンが候補になります。
よくあるつまずき:
起点を決めずに「とにかくアイデアを出そう」と会議を始めると、参加者ごとに頭の中の起点が違うため顧客の困りごとと自社技術の使い道が同じ一覧に並び、比較や深掘りができなくなるので注意しましょう。
C-2│アイデア創出・見極め
共通の創出技法│材料を幅広く集め、組み合わせる
起点を決めたら、それぞれの進め方に沿ってアイデアを出していきます。起点が違っても共通して重要なのは、幅広く集めた材料をうまく組み合わせることです。世の中の事業と類似性がなく完全に新しく、なおかつ筋の良いアイデアを、準備なしにひらめくケースはほとんどありません。

アイデア創出は次の3つのステップで回します。
①材料収集:インターネットや文献で市場に関する幅広い情報を集める。有識者へのヒアリングで生の声を取るのも有効。ここで止まる人が多いが、通勤電車の広告や趣味の場での日常の気づきにもアンテナを張る。
②咀嚼・連結:集めた情報を整理・分析して示唆を出し、AIやチームメンバーとのディスカッションやワークショップで、異業種の事例や自社の強みと組み合わせたり、「既存のこれをこう置き換えたら?」といった発想の転換を大量に行う。
③孵化・啓示:そこで満足せず、一度意図的に距離を置いて熟成させる。対話や環境の変化を通じて情報が結び付き、良質な事業アイデアとして具体化される。
「アイデアマン」と呼ばれる人たちは、ただひらめいているわけではありません。このプロセスの結果として、シャワーを浴びているときなどに思いつくということが起きています。つまり③の熟成は運任せの工程ではなく、意図的に設計する工程です。
共通の創出技法│評価し、検証に進める事業アイデアを選定
事業アイデアを洗い出せたら、市場性・実現性・優位性から総合的に評価します。

評価は3つの観点で行います。
市場性:価値を提供すべき顧客課題が、限られた顧客層の特殊な課題で終わらないか。重要度・緊急度が高い課題か。
実現性:必要な技術やオペレーションを想像したときに、事業アイデアが成立しそうか。法規制や市場の寡占度など、K.O.ファクター(それ1つで成立しなくなる要素)になり得る要素がないか。
優位性:他社と比較して、自社ならではの違いを生み出せる要素があるか。ただし違いがあればよいのではなく、その違いが顧客を含む関係者の誰かの「うれしさ」につながる必要がある。
3つの観点を一律に見るのではなく、C-1で選んだ起点によって重みづけをすることを勧めます。顧客起点・課題起点で出したアイデアは、実現性・優位性を中心に評価し、市場性は参考情報として扱います。一方、優位性起点・解決策起点で出したアイデアは、市場性・実現性を中心に評価し、優位性は補助的に評価します。そのうえで、優先順位の高いアイデアを、次の工程の仮説検証インタビュー(1-D)に進めるアイデアとして選びます。
よくあるつまずき:
この段階で絞り込みすぎることです。検証で覆ることは珍しくないため、第一候補・第二候補・第三候補と優先度が見える形でアイデアを残しておきましょう。。
C-3│整地:BIC(Business Idea Canvas)への落とし込み
BIC(Business Idea Canvas) Conceptで事業アイデアの共通認識をそろえる
C-2で作り上げたアイデアは、言葉にして関係者で共通の認識を持つことが、以降の推進と成功の必須条件です。この時点で認識のずれがあると、後の検証や分析で論点がずれ、手戻りや、本来有望なアイデアを否定してしまう事態を招きます。
BICは6つの要素で書きます。

解くべき課題として、①誰が顧客なのか、②その顧客にどういう不があるのかを、簡潔かつ核心を突いて記載する。
解き方として、③その課題を解消できるプロダクトは何か、④他社や他製品と比較して優位性をもって提供できる実現手法は何かを明確に記載する。
事業成立の土台として、⑤この事業でどういう企業価値を得られるか、⑥それは何をもって生まれるのか(優位性の源泉は何か、なぜ他社より優位になるのか)を言葉にする。
これらを言葉にしてBICに落とし込み、関係者との共通認識をそろえることが、事業アイデア創出のゴールです。
BIC Imageでビジネスモデルと市場概況を1枚でまとめる
前項の6要素(コンセプトサマリ)に加えて、BICにはビジネスモデルと市場概況を1枚にまとめた第2面(イメージサマリ)を添えます。
第2面には5つの要素を置きます。

① ビジネスモデル:自社・顧客・パートナーの間の、モノとカネの流れ。
② 外部環境:PESTの観点で、追い風になるプラス要素と、念頭に置くべきマイナス要素の両方。
③ 市場規模:TAM・SAMの超概算(フェルミ推定で構わない)。
④ 競合プレイヤー:主要プレイヤーとシェアの状況。
⑤ 創出価値の概算:市場規模とシェアから見込む収益に、既存事業への効果を添える。
ここで重要なのは数値の精緻さではありません。市場がきちんと定義され、ロジックが適切で、概算の数値が桁のレベルで間違っていないことです。また、③〜⑤は次のStep2(事業企画)で精緻化するため、この段階ではChat GPTなどのDeep Researchなどでクイックに「あたり」をつけることが重要です。
まとめ
事業アイデア創出では、起点を決め、材料を集めて組み合わせ、BICに落とすという手順を踏むことが大事です。ひらめきに頼らず手順で出すことで、アイデアの質と量が個人の資質に左右されなくなります。いま事業アイデアを検討している方は、次の点を見直してみてください。
- 事業アイデアの4つの要素のうち、どれを起点に埋めるかを決めてから始めているか
- 材料を幅広く集め、材料収集・咀嚼と連結・孵化と啓示の3ステップで組み合わせているか
- アイデアを市場性・実現性・優位性で評価し、起点に応じて重みづけしているか
- 有望なアイデアをBICの6要素に落とし、優位性の源泉まで言葉にしているか
- BICの内容を、関係者と共通認識としてそろえているか
その後の進め方は「こちら」で具体的に説明していますので、あわせてご確認ください。
Third Baseではこれまで「新規事業をどう進めればいいか分からない」「スピード感を持って進めたい」といったご相談をいただき、メンタリングや伴走など様々な形で支援してきました。新規事業開発でお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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