1-B│参入領域の特定

1-B│参入領域の特定

本記事では、Step1「アイディエーション(事業アイデアを出し、絞り込む段階)」の2つ目の工程である「参入領域の特定」を解説します。1-1で確認した目的を受けて、「どの市場の、どの領域で戦うか」を決める工程です。

はじめに. 市場を見に行く前に「何で勝つか」を決める

新規事業のテーマ探しと聞くと、まず市場調査から入りたくなります。しかし、目的や自社の強みを定めないまま市場調査から始めると、成長性や話題性で市場を選んでしまい、自社では勝てない市場、あるいは目的の達成につながらない市場に入るリスクがあります。そこでThird Baseでは、次の3つの順番で進めることを勧めています。

  • 何で勝つか:自社の強みの源泉と、その強みで取る「立ち位置」を決める
  • どこで戦うか:立ち位置を前提に、探索する市場の範囲を決める
  • どの領域に入るか:その市場の中で、自社が勝負する事業領域を洗い出して絞る

ここで大事なのは、参入領域を選ぶ前に、選ぶための前提(何で勝つか・どこで戦うか)を固めておくことです。多くのケースで、いきなり市場やアイデアの検討に入ってしまいます。しかし「何で勝つか」を決めていないと探索が発散し、勝ち筋の見えない事業になります。

本記事で解説する全体の進め方イメージは下図となります。

本記事では、次の2つの工程に分けて解説します。

  • B-1|探索する市場を定める:自社の立ち位置を定め、4つの市場区分のうち探索する区分(探索スコープ)を定める
  • B-2|参入領域の洗い出しと評価:市場の中で参入する事業領域を洗い出し、3つの軸で評価して特定する

この工程で定めるものは2つです。1つ目は、探索する市場の範囲(探索スコープ)です。市場は「顧客が既存か新規か」と「既存事業とつながる商品・サービスか(連続か非連続か)」の2軸で4つの区分に分けられます。そのうち、どの区分を探索するかを定めます。2つ目は、その範囲の中で参入する事業領域(候補ごとの評価結果つき)です。この2つが決まっていると、次の工程「1-3|事業アイデア創出」で発想の起点を選びやすくなります。

B-1│探索する市場を定める

自社の立ち位置を特定する:何で勝つか

最初にやることは、「自社は何者か(=何で勝つか)」を言葉にすることです。ここが決まらないまま市場を見に行くと、市場を切り分ける軸そのものが立ちません。このステップのゴールは、自社の立ち位置を「自社は何者か」の一文で定義することです。

立ち位置は、図の4ステップに沿って、ビジョンを起点に候補を広げたうえで1つに絞り込みます。

大まかな流れは次のとおりです。まず①で、ビジョンをどこまで広く読めるかを決めます。続く②で、顧客から見た今の立ち位置を確かめます。そのうえで③では、外部環境と自社の武器を材料に、取り得る立ち位置の候補を複数つくります。最後に④で、どの候補を「やる」かを意思をもって決め、一文に落とします。

①で迷いやすいのは、「コア」「保守的解釈」「拡張的解釈」の違いです。コアは、どう読んでも変わらないビジョンの中心です。保守的解釈は今の事業の延長でビジョンを狭く読んだもの、拡張的解釈は事業の枠を外して広く読んだものです。

たとえばThird Baseのビジョン「日本の事業開発を倍速で前へ」で考えます。コアは「事業開発を速く前に進める」です。保守的に読めば「顧客企業の新規事業プロジェクトを、構想からローンチまで速く確実に進める」となり、今のハンズオン支援の延長にあります。一方で拡張的に読めば「企業の中に、事業開発が生まれ続ける人材と仕組みを根づかせる」となり、個別のプロジェクト支援の枠を超えます。この2つの解釈の間が、③で立ち位置の候補を探してよい範囲になります。

各ステップで答える問いと記入例は、次のとおりです。記入例は、Third Base自身を題材にした説明用の一例です。

ステップ答える問い記入例(Third Baseの場合)
①自社ビジョンの再解釈自社の存在意義を、狭く読むとどうなるか。広く読むとどうなるかビジョン「新規事業を通じて企業の価値創出を加速する」→ コア:価値創出の加速/保守的解釈:新規事業の成功確率を高める/拡張的解釈:企業の価値創出機能そのものを再設計する
②現状の立ち位置の整理顧客は自社を何の会社だと認識しているか。何に対価を払っているか。それは何で成り立っているか顧客認識:新規事業コンサル・伴走支援/提供価値:事業アイデアの精度向上、役員答申の通過、PoC推進/源泉:人月型(プロジェクト型)の人依存型サービス
③ポジションの再設計市場や技術はどう変わっているか。その中で自社の武器はどれか。武器を中核にすると、どんな立ち位置が取れるか外部環境:内製化の要請、AIによる代替、人材不足/自社の武器:事業開発ノウハウ、伴走力、構造化力/候補:新規事業成功率向上コンサル、新規事業の内製化支援会社、企業の価値創出機能を担う外部パートナー
④意思決定候補のうち、どれを「やる」と決めるか私たちは、大企業の新規事業開発で内製化が求められる状況に対して、事業開発機能を、組織・人材・プロセス設計によって実現する内製化支援会社である

③の「自社の武器」とは、技術・顧客基盤・ブランド・販売チャネルなど、他社に対して優位に立てる要素のことです。武器を洗い出したら、その中から中核として戦う源泉を1つ選び、それを前提に立ち位置の候補をつくります。複数の強みをすべて活かそうとすると、戦い方があいまいになるためです。

④の一文は、図に示した型に当てはめて書きます。型の5つの穴が埋まらない候補は、まだ立ち位置として固まっていないと判断できます。

実務では、①②は社内資料(ビジョン、中期経営計画、顧客の声)をインプットとし、③④を進めることが主流です。また、③④は経営層や事業責任者とディスカッションをすることで外れずに進めることができます。

よくあるつまずき:

③で強みを絞ることを「機会を捨てること」と受け取り、全部残してしまうことです。中核を定めないと、次の「探索する市場の範囲」を切る軸が立ちません。もう1つは、①を飛ばして③から始めることです。ビジョンの解釈の幅を決めていないと、候補が「今の延長」か「何でもあり」のどちらかに寄ります。

探索する市場の範囲を決める:どこで戦うか

立ち位置が決まったら、次はどの市場を探索の対象にするかを決めます。市場は無数にあるため、範囲を決めずに探索を始めると議論が発散し、決められなくなります。このステップのゴールは、4つの市場区分のうち、新規事業の目的を踏まえて探索の対象とする区分(=探索スコープ)を定めることです。

探索スコープは、市場区分の整理を前提に、「自社立ち位置との接続」「探索対象範囲(スコープ)の選択」の2つのステップで定めます。

図のプロセスの1つ目「(前提)市場区分の整理」は、4つの区分がどう成り立つかを確認する前提の部分です。そのうえで、実際の作業は2つ目で区分の基準を自社の言葉で定め、3つ目でその中から探索する区分を選ぶ、という流れになります。

1│(前提)市場区分の整理:4つの区分を知る

市場は、「顧客」と「サービス・商品」の組み合わせでできています。新規事業は、このうち新しいサービス・商品を扱う取り組みです。さらに新しいサービス・商品は、既存事業とのつながりによって「連続」と「非連続」に分かれます。これに顧客の「既存/新規」を掛け合わせると、深耕市場・価値転換市場・隣接顧客市場・飛び地市場の4つの区分ができます。すべての新規事業は、このどれかに位置づけられます。

4つの区分は、求められる戦略・難易度・リターンが大きく異なります。市場の広さやトレンドだけで選ぶと自社では実行できない区分を選んでしまうため、分類そのものよりも各区分の戦略的な意味と難易度を押さえておきます。これが、3つ目のステップで区分を選ぶときの判断材料になります。

2│自社立ち位置との接続:区分の基準を定める

4つの区分は、市場に固定的に存在するものではありません。どこまでを「既存顧客」「連続」とみなすかは、自社の立ち位置によって変わります。

立ち位置を前提に、顧客を「既存/新規」に分ける基準と、サービス・商品を「連続/非連続」に分ける基準を、自社の言葉で定めます。

基準を決めずに4つの区分を描くと、候補が出るたびに「これは連続か非連続か」で議論が止まります。基準は、立ち位置の一文に含まれる「誰」と「提供価値」から導くと、前のステップとつながります。基準の置き方を、本記事の末尾で扱うセブン-イレブンのマルチコピー事業(1990年代を想定した推察)で見ると次のとおりです。

定めるもの答える問い記入例(セブン-イレブンの場合)
顧客の基準(既存/新規)自社にとって「既存顧客」とは誰か「時間やアクセスの利便性に価値を感じる人か」→ 既存:会社員・学生・単身世帯/新規:主婦・高齢者
サービス・商品の基準(連続/非連続)「既存事業と連続」とはどういう商品・サービスか「日常の中で手軽に求められるものか」→ 連続:食品販売・物流・決済/非連続:不動産・遊園地
立ち位置による線引きの変化新しい立ち位置で見ると、「連続」に入る範囲は広がるか、狭まるか立ち位置を「軽食や飲料を買える場所」から「日常の用事を済ませられる場所」に再定義したことで、印刷や手続きのような「モノ売り」以外のサービスも、連続の側に入る

立ち位置によって線引きがどれだけ変わるかは、Amazonの例がわかりやすいです。同じ企業でも、立ち位置の定義が変われば、各事業がどの区分に入るかの考え方が変わります。

立ち位置を抽象的に定義するほど、「連続」と見なせる範囲は広がります。ただし、抽象度を上げすぎると次の3つのリスクが出ます。1つ目は、ほぼすべての領域が連続に見えて、探索範囲の限定が機能しなくなること。2つ目は、競争優位の根拠があいまいになり、「できる」と「勝てる」の区別がつかなくなること。3つ目は、実行に必要な能力や組織のギャップを過小評価してしまうことです。

そのため、立ち位置は広く定義するのではなく、自社が実際に競争優位を発揮できる範囲で定義します。

3│探索対象範囲(スコープ)の選択:目的に照らして選ぶ

1-Aで確認した新規事業の目的に照らして、探索する区分を通常1〜2つに絞ります。

短期の収益創出が目的なら深耕市場や隣接顧客市場、中長期の成長の柱づくりなら価値転換市場や飛び地市場が候補になります。ここで大事なのは、目的が「評価」ではなく「限定」だという点です。範囲を先に決めておくことで、以降の参入領域の洗い出しやアイデア創出を、意図した区分に集中させられます。

よくあるつまずき:

この段階で「どの市場が良いか」を評価し始めてしまうことです。まだ根拠が足りないため優劣の比較にならず、いつまでも決まりません。もう1つは、区分の基準を決めないことです。既存顧客と新規顧客の境目があいまいなまま次に進むと、参入領域の洗い出し(B-2)で候補の置き場所が定まりません。

B-2│参入領域の洗い出しと評価

市場・事業領域・事業アイデアを区別する

探索する市場が決まっても、市場を定義しただけでは足りません。その中で自社が勝負する「事業領域」を定めることが、勝ち筋のある事業アイデアを生む起点になります。ここで使う3つの言葉を区別しておきましょう。

参入領域の特定で扱うのは、この3階層のうち「事業領域」です。市場より一段具体的で、事業アイデアより一段抽象的な粒度で候補を出します。

よくあるつまずき:

3つを混同したまま議論し、市場の名前と個別の事業アイデアが同じ一覧に並んでしまうことです。粒度が違うものは適切に比較できないため、評価の段階で議論が止まります。候補を出すときは「これは市場か、領域か、アイデアか」を確認しながら書き分けましょう。

参入の方向性を決め、参入領域を洗い出す

B-1で定めた市場区分ごとに参入領域を洗い出します。既存事業と連続性のある深耕・隣接市場なら自社を起点に網羅的に、既存事業とはつながらない、非連続な価値転換・飛び地市場の場合は外部情報を起点に仮説的に候補を出します。

連続の場合は、自社の立ち位置(自社は何者か)から全体像をつかみ、次の4つの手順で候補を出します。

①全体感を特定する。
②バリューチェーン軸・機能軸・時間軸など多面的な視点で第1階層を出す。
③第2階層以降を構造化する。
④適切な階層で線を引く。

たとえば「新規事業の内製化支援会社」と定義した場合、支援プロセス軸(アイディエーション/PoC・事業性検証/立ち上げ・グロース支援)、機能軸(人材育成/組織・プロセス設計/AI・ツール提供)、提供形態軸(伴走コンサル/研修プログラム/SaaS・プロダクト)のように切り出します。網羅性が高く、抜け漏れを構造的に潰せるのが特徴です。

非連続の場合は、メガトレンドや直近のスタートアップの事業概要といった外部情報を起点に、①トレンド・先行事例から候補を出し、②有望な仮説に絞って深掘りします。候補は無限に広がるため網羅はできず、発想は広がる一方で確実性は担保できません。飛び地は、明確な勝ち筋の仮説がない限り勧めません。

よくあるつまずき:

方向性を決めずに洗い出しを始め、連続と非連続の候補が混ざって出てくることです。連続の候補は網羅性で、非連続の候補は仮説の筋の良さで見るため、混ざると同じ物差しで比べられません。

Must・Can・Willで評価して参入領域を特定する

候補が出そろったら、「自社が参入すべきか」という観点で評価して絞り込みます。

評価は3つの軸で行います。Must(領域の魅力度):1-1で確認した目的を達成するうえで、その領域に参入すべきか。市場規模・成長率・将来性で見る。Can(実現性):まだ具体化の浅い参入領域の段階なので、活用できそうな自社の資産があるか、大きな参入障壁がないか、という粗い粒度で見る。Will(合理性):経営戦略や今回の新規事業の目的を踏まえて、その領域に参入する理由を説明できるか。

基本はこの3観点ですが、企業や事業部によって事情は異なります。必要に応じて評価軸を追加するなど、自社に合わせて調整してかまいません。

よくあるつまずき:

Canを「実現できるか」ではなく「やったことがあるか」で判定してしまうことです。参入領域の段階ではまだ具体化のレベルが低いため、資産と参入障壁という粗い粒度で見ます。

まとめ

参入領域の特定では、「何で勝つか」を先に決め、そのうえで「どこで戦うか」を絞るという順番が大事です。この順番を守ることで、次の事業アイデア創出を、意図した領域に集中させられます。いま参入領域を検討している方は、次の点を見直してみてください。

  • 自社の立ち位置を「自社は何者か」の一文で定義できているか
  • 4つの市場区分のうち、目的を踏まえて探索スコープ(通常1〜2区分)を定めているか
  • 市場・事業領域・事業アイデアの3階層を区別して候補を出しているか
  • 参入領域の候補をMust・Can・Willで評価し、その結果を残しているか
  • 立ち位置・探索市場・参入領域を、経営層・関係部門と合意しているか

その後の進め方は「こちら」で具体的に説明していますので、あわせてご確認ください。

Third Baseではこれまで「新規事業をどう進めればいいか分からない」「スピード感を持って進めたい」といったご相談をいただき、メンタリングや伴走など様々な形で支援してきました。新規事業開発でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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